Saturday, August 24, 2013

日本人ソフトウェアエンジニアのための、海外スタートアップ企業就職ガイド (職探し編)

 僕は1年ほど前に、日本からイギリスのスタートアップに転職しました。海外スタートアップへの転職は簡単ではないですが、技術的に売れるものと、最低限の英語力があれば、あとは十分時間をかければいつかは成功するはずです。今回は、どういう風に職探しをすればよいかについて書いてみたいと思います。

  • 米国以外もマークする
    • ソフトウェアエンジニアの場合、シリコンバレーに職が集中しているのでそこばかりマークしてしまいがちですが、他の国にもポジションはあります。数値で比較した訳ではないですが、イギリス、カナダ、オーストラリア、アイルランド、シンガポール、ドイツ、オランダ、スウェーデン、スイス、ルクセンブルグなどに職が多いようでした。
    • 中国、インド、東欧など発展途上国にも職はありますが、給料が低いため貯蓄が十分できなくなってしまう場合が多く、日本でお金が必要になったり、帰国することになった場合に困ってしまうので正直あまりお勧めできません。ただし、中には特別光り輝いているスタートアップもあるので、そういうところに行くのであればアリじゃないかと思います。

  • 日本市場をターゲットにしているスタートアップを探す
    • このパターンが結局一番成功しやすいです。そもそも相手企業もハナから日本から雇うつもりであることが多いので、通常ビザもスポンサーしてもらえますし、会社のお金で面接に呼んでもらえることが多いです(=そのついでに他企業の面接も受けられる)。技術面での要件も低くなります。幹部への道も開けやすいので、キャリアアップの点からも良いです。

  • でも、日本に縁のないポジションも対象に入れる
    • 日本に縁のある求人はそんなに多くないので、それにこだわっているとチャンスが少なくなってしまいます。日本に縁のないポジションでも技術的なウリがあれば十分可能なので、対象に入れるべきです。

  • 日系企業の現地採用は注意する
    • 日系企業への就職は一番ハードルが低いのですが、残念ながらあまり良いことがないのが現実です。僕は日系企業の本社から海外子会社に派遣されて仕事をしていた時期があるのですが、現地採用の日本人人材は基本給料が低く、出世の可能性もほぼない上、雇用の安定性もないことがほとんどです。しかも仕事の仕方などは全く日本企業と変わらない場合が少なくないので、せっかく海外就職したのに日本の企業で派遣社員として働くのと変わらない状況になってしまいます。それなら日系企業の本社に就職して派遣された方が100倍いいに決まっています。

  • 転職エージェントにも当たる
    • 多くの転職エージェントは現地に既にいないと相手にしてくれないのですが、日本に縁のあるポジションや、なかなか人材が見つからないポジションであれば興味を示してくれます。いっぱいあるので、いっぱい当たってみましょう。企業の情報や面接のアドバイスなどがもらえるので、ありがたい存在です。
    • ただし、エージェントはあなたの味方ではなく、お金の味方だということを忘れないでください!(笑)あまりマッチしたポジションでなくても取りあえずねじ込もうとするケースが少なくないですし、企業情報もいいことばかり挙げて悪い情報は出してくれないのが普通です。国の慣習によりますが、日本と違って安く売ってなんぼな場合もあるので、強引に給料を下げる交渉をしてくる場合もあります。どんなにエージェントが親切でも、早めに就職先企業と直接交渉する状況に持っていった方が良いでしょう。

  • 国際的な就職活動で便利なツール
    • Indeed.com
      • 求人のメタ検索サイトです。一言で言えば求人のグーグル、「最強」です。各国版があります。
    • StackOverflow Career
      • 良質なスタートアップ企業の求人が多いです。また、StackOverflowでレピュテーションを貯めているとスカウトされる場合もあります。僕はこのサイトがきっかけで今の企業を見つけました。
    • Monster.com
      • 主にエンジニア向けの求人サイトです。これも各国版があります。個人的にはあまりいけてないポジションが多かったような印象があるのですが、僕の気のせいかもしれません。規模はでかいです。
    • AngelList
      • 主にスタートアップ企業の求人となります。StackOverflow Careerと違って広告を出すのがタダなので、始まったばかりでお金のない小さなスタートアップの求人も出ています
    • Glassdoor
      • 主に給料水準を知るのに役に立ちます。若いスタートアップの場合その企業自体の口コミが投稿されている事は少ないのですが、同じような職種・経験の人の給料水準が見れるので、とても有用です
    • Duedil
      • 会社についての公開情報を集めてきて見せてくれるサイトです。会社として登録してさえあればなんらかの情報は見れるので(創立年、株主構成、資本構成など)、便利です。







Wednesday, August 21, 2013

日本人ソフトウェアエンジニアのための、海外スタートアップ企業就職ガイド (準備編)

 僕は1年ほど前に、日本からイギリスのスタートアップ企業に転職しました。海外スタートアップへの転職は簡単ではないですが、技術的に売れるものと、最低限の英語力があれば、あとは十分時間をかければ可能なはずです。今回は、日頃どういった準備をすべきかについて書いてみたいと思います。

  • 関連性の高い学位を取る

    • 関連する学位を持っていると、ビザ取得や就職活動で圧倒的に有利です。情報系の修士以上が理想ですが、学士でも、また数理系(数学、電気工学、物理学など)の学位でも十分役に立ちます。ただ、実務経験を学位に代えられるケースもあるので、関連学位がないと不可能という訳ではありません(何を隠そう僕の学位も生物学でした)

  • 参入障壁の高い技術をウリとして育てる

    • 企業や国の立場に立って考えると、わざわざ外国から人を雇うには相当の理由が必要になります。一言で言うと、これらの「理由」は①給料が安い・仕事がきついため人が集まらない、②必要な技術を持った人が見つからない の2パターンに分けられます。①のコースは色々悲惨なので、絶対に②のコースを目指すべきです。
    • 一番簡単なのは、技術的に難度が高くてニッチな技術を売りにすることです。例えば、生体認証、音声認識、航空管制、暗号技術など非常にニッチな分野は技術者が見つけにくいので、求人さえあれば内定もビザも下りやすいです。ただ、あまりニッチすぎると求人が少なくなるので、分散処理、並行処理、関数型言語、金融フロントなど「適度にニッチ」な分野が最もオッズが良いのではないかと思います。鍵は、難度が高い=参入障壁が高い事です。アジャイル、Webアプリ、クラウドなど敷居が低いウリは国内で十分見つかるので、海外からの就職は難しくなりがちです。
    • 特におすすめなのは機械学習、人工知能、統計などのアナリティクス分野です。この分野は敷居が高い上需要が爆発しているので、スタートアップのみならずあらゆる分野の事業会社、コンサルティング会社などから引く手あまたで、ビザも内定も非常に取りやすいです。かつ給料水準も素晴らしく、幹部へのキャリアパスも開きやすいので、いいこと尽くめです。こっち系にいく選択肢があるのなら迷わず選ぶべき分野です。

  • 公開実績を貯める

    • 海外からの転職活動は会って話ができる時間が短いので、客観的に検証できる材料の比重が上がります。日本で日常生活を送りながら蓄積できるものもたくさんあるので、コツコツ取り組むといつか役に立つ日が来ることでしょう。効果が高い順に並べるとこんな感じです:
      • OSSプロジェクトのコミッターになる
        • 「この有名なプロジェクトのこの部分をやりました、これがそのコードです」と示せればこんなに強力なアピールはありません。例え有名なプロジェクトでなくとも、あるいはコアな部分に関わっていなくとも、何かしら貢献したものがあれば十分アピールになります。
      • OSSを公開する
        • 自分一人ででも、何かしらOSSやサービスを世に出していれば、雇う側としては実力を見極めやすいので強力なアピールになります。もちろんモチベーションが高いことの証明にもなります。メディアはなんでもよいのですが、GitHubにしとけば間違いはありません。
      • 英語ブログを書く
        • 誰も読まないブログでも構いません。日々の発見や思ったことを綴っているだけでプラスになります。雇う側としては英語力のチェックにもなります。後から英語化するのは面倒くさいので、最初から英語のブログプラットフォーム(Bloggerとか)を使うのがおすすめです。
      • StackOverflowでレピュテーションを集める
        • StackOverflowはプログラマ向けのQ&Aサイトです。業界では非常に有名で、ユーザ数を230万数え、有名なプログラマも数多く活動しています。ここで上位の評価を得ていると安心感がありますし、回答の履歴から、その人の興味関心や開発に対する考え方、コミュニケーション能力を推し量ることもできます。目安としては数千くらいレピュテーションを貯めておければベストです。
      • LinkedInでリコメンデーションを集める
        • 非英語圏からエンジニアを雇う際、「英語でうまくコミュニケーションを取っていた」とか「欧米的な風土でうまくやっていた」といったリコメンデーションがついていれば、雇う側に安心感を与える事ができます。必死になって集める必要はないですが、誰か書いてくれそうな心当たりがあれば頼んでおいて損はないでしょう。

  • 英語を磨く

    • いろんなところで「英語ができなくても気持ちさえあれば大丈夫」とか言われていますが、僕は全くそう思いません。確かにエンジニアは営業やマーケティングに比べれば求められる英語要件は低いですが、そもそも面接で実績やスキルをアピールできなくてはいけませんし、「こいつは社内で十分コミュニケーションを取ってやっていけそう」と思ってもらわなくてはいけません。また、先々出世するためには、コミュニケーション力(事実上≒英語力)がより重要になっていきます。焦る必要はないですが、英語力向上に努めるべきなのは明らかです。
    • ちなみに、個人的に英文法の勉強はあまり有用でないと思います。細かい文法が間違っているから言いたいことが伝わらないということはあまりありません。語彙、単語の使い方についての理解、発音の問題で伝わらないことの方が遥かに多いです。ですので、これらの力を強化できるような学習をした方が良いような気がします。






Saturday, August 17, 2013

海外就職のリアルな話

 ここ最近、森山たつをさんを始めとするブロガーのお陰で海外就職が注目されているようなので、1年ほど前に海外就職した経験から、自分なりにリアルなところをお話ししてみたいと思います。

発展途上国は厳しい

森山さんは、「景気のいいところで仕事ができる」、「給料水準は低いが、物価が安いので高い生活レベルで暮らせる」など、主にアジアでの就職のメリットを説いています。確かにうなずける点はあるのですが、次のようなデメリットもあります:

  1. 貯金力が低くなるため、日本でお金が必要になったり、帰国を強いられた場合に困る
  2. 育児に適した環境を整えにくい

 まず、1について見ていきましょう。森山さんの記事には、「物価が4分の1のジャカルタで、手取り16万円」とあります。先進国での生活費をざっくり20万円と仮定すると、ジャカルタでの生活費は5万円となるので、月11万円貯金ができる計算となります。一方、先進国で手取り40万の仕事をすると、貯金は月20万円です。夫婦で共働きしたり、節約したりするとこの差はさらに広がります。例えば、ジャカルタで頑張って生活費を1万円に切り詰めたところで15万円しか貯金できませんが、先進国で生活費を10万円に切り詰めると、30万円貯金する事ができます。

 つまり、発展途上国で生活している分にはいいのですが、親の具合が悪くなるなど何かの事情で日本でお金が必要になったり、帰国せざるを得なくなると一転困窮してしまうおそれがあるのです。年金についてもしかりです。先進国で貯まった年金で発展途上国で暮らすのは容易ですが、発展途上国で貯めた年金で先進国で暮らすのは困難です。先進国にゆかりのある人が発展途上国で働くというのは、お金の面で非常にリスキーな選択なのです。

 次に、2について見ていきましょう。僕は日系メーカーの海外事業部で働いていたので、中国やインドで仕事をする機会が多くありました。特にインドには延べ半年くらい滞在し、いい思い出もたくさんあるし大好きな国なのですが、子供を育てるという視点から考えると選択肢から外さざるを得ないのです。

 まず、単純に空気が悪い。そんなもんどうにでもなるじゃないかと言われてしまいそうですが、水や食べ物はお金で解決できても、空気だけは避ける事ができません。インドにいた頃はよく散歩に出かけていたのですが、時間帯や場所が悪いと常時タバコをすっているようなもので、冗談抜きに息が苦しくなるほどです。国によって差はあれ、新興国の都市部である限りは、深刻な大気汚染を覚悟しなくてはいけません。

 また、なんだかんだ言っても教育環境も先進国の方が整えやすいです。これは好みもありますし、ちょっとキワドい意見になってしまいますが、発展途上国は社会・文化が先進国ほど進歩的でない傾向があります。例えば、インドでは未だ家柄や星座の一致をベースにしたお見合い婚が主流で、恋愛結婚は稀です。恋人ができて、結婚したいと思ってもできないことの方が普通なのです。女性の権利や、多様性の尊重、博物館・美術館やインターンシップの充実度など様々な面で、発展途上国の方が遅れている傾向があるというのが、残念ながら現実です。子供にはいろんな社会のあり方を経験してほしいので、発展途上国に触れる機会は持ってほしいなと思いますが、ぶっちゃけ欧米の進歩的な環境でのびのび育ってほしいというのが本音です。

本社からの海外赴任でないかぎり、日系企業は避けるべし

僕が勤めていた日系メーカーでは、海外赴任されるとそれはもう良い事尽くめでした。いろいろな手当がついて給料は上がるし、家はいいところに住めるし、海外にいる間は退職金の貯まり方が2倍になるし、現地法人ではポジションが1つ2つ上がるし、日本よりも仕事が楽な事が多いし、帰国すると昇進に有利だし、本当に海外赴任ほどおいしい話というのはそうありません。

 ところが現地採用というだけで状況は一変します。給料は低いし、昇進はまず望めません。海外赴任組からは「現地の人」と呼ばれさながら身分制度のようなものです。中でも現地採用された外国人は英語スキルなどを買われて要職についたり、本社に呼ばれて活躍する場合がありましたが、日本人は本社にたくさんつかえているので、重用される事はまずありません。その一方仕事ぶりは日本と変わらないので、日本の大企業に派遣で勤めているような状況になります。

 一方欧米系の企業であればそういった露骨な身分制度はありませんし、日本市場進出に関わる仕事などにつけば、社内で頼りにされ面白い仕事ができ、帰国した場合のキャリアも広がります。

 技術者であれば、日本に全く関係ない企業も十分選択肢となります。例えば、僕は今、日本に縁もゆかりも一切ない企業に勤めています。ロンドンやシリコンバレーなど国際化が進んでいる都市では技術者を各国から集めるのは普通になっているので、日本人だからと言って採用や昇進に不利になる事は通常ありません。給料も日本で技術職をやるより貰えることが多いですし、違った働き方や社風を経験でき得る物も多いでしょう。特にソフトウェア開発者の人には、是非日本に関係ない会社も選択肢に入れてほしいところです。








 

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